『ミクと時のひなた』 舞台探訪 その5 

2018, 04. 28 (Sat) 20:30

 ―――伊達市開拓記念館


今回の舞台探訪は伊達市の開拓記念館です。作中の舞台となっているわけではありませんが、ひなたの持っている蒔絵の貝殻はこちらで見た貝合わせと貝桶がモデルとなっています。


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この開拓記念館に初めて行ったのはぼくが小学生低学年のときでした。伊達にはぼくの祖母が住んでおり、夏休みや冬休みになると帰省し、そこで過ごすというのが長年の習慣となっていました。ふだん札幌に住むぼくにとって伊達は小さな街であり、子ども心に「なにもないところだなあ」などと思っていました。もっとも緑や自然が多いぶん、遊ぶ場所には事欠かなく、またばあちゃんちはやたら広い上に雑貨屋を営んでいるということもあって居心地が良く(いい子にしているとお菓子が食べ放題だったということもある)なによりばあちゃんのぬくもりに接することがうれしくて、そこを訪ねることをいつも楽しみにしていた記憶があります。


そんな小さな伊達の街にあって、ガキンチョのぼくが好んで訪れた場所が、祖母宅から歩いて数分のところにある伊達市開拓記念館でした。すでに作品内でも書きましたが、伊達市はもともと奥州仙台藩の伊達家がルーツということもあって、この博物館には奥州伝来の伊達家にゆかりのあるたくさんの武具や甲冑、火縄銃などが展示されていました。歴史好きの子どもの目にはそれらはまるで宝物のように見えました。


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もっとも建物自体は緑の敷地の中に建つ無骨なコンクリート製のいかにも素っ気ないこしらえで、それと知らなければそのまま素通りしてしまうようなかなり地味な外観をしています。以前ネット上のどこかで、この博物館のことを「店構えは小さくて汚いが、入ってみると味は特上の寿司屋」という風に例えた紹介の記事を目にしたことがありますが、まさにそんな感じで、建物は古くて暗くてどうひいき目で見てもあまりぱっとしません。ところがいざ一歩館内に足を踏み入れてみると、歴史的・文化的に貴重な文物が無造作にごろごろ展示されており、知る者ぞ知る逸品が直接触れられそうなくらい間近で眺めることができるまさに「穴場」と呼ぶにふさわしい記念館でした。


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ふさふさの前立て



展示物の中でも有名なのはやはり伊達成実着用の甲冑でしょう。伊達政宗の家臣、伊達成実は片倉小十郎景綱と並んで伊達政宗の創業を支えた両翼として知られています。知恵者で参謀役の景綱に対し成実は猛将として有名で、そのかぶとにはふさふさした大きな毛虫の前立てがついています。これはよく言われているように毛虫が身体構造的に後ろに下がれない特性を持っていることにちなんで、「戦いで決して退却しない」という意味を持たせているとのこと。まさに戦場を往来した歴戦の武人である成実らしい意匠です。


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こっちはゲームの中の成実さん


実際に間近で見ると胴具足の表面には生々しい弾痕ががっつり残っていたりと、その力感に満ちた造りは一見の価値があります。(もっとも弾痕は戦場でついたものではなく、試射、つまり甲冑の制作時にどれほど防弾耐久力があるか実際に火縄銃で撃ってみた痕であるそうです)


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ちなみにこっちは蒔絵の貝殻です。一枚一枚丁寧に絵が描かれており、大変な作業であることが偲ばれます。輿入れの際の花嫁道具として重用された由緒ある品です。実際に貝に百人一首の歌が記されることはないのですが、インスピレーションの源にさせていただきました。


他にも様々な逸品・珍品がある博物館ですが、ぼくがなぜこうしたことを知っているかというと、ネットで調べたわけではなく、小学生時分、館内にいたおじいさんに展示物についての故事や由来を直接聞く機会があったからです。たぶん地元の名士か誰かだったのでしょう、当時すでに初老だったおじいさんから聴くお話はどれも面白く、ぼくら小学生はわくわくしながらその語りに耳を澄ませていました。その記憶が長い年月を経た今でも残っており、今回この作品を書くときに大きな力となってくれました。



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この作品を書くに際し、これら文物を眺めたくなり、昨年ぼくは久しぶりにこの博物館を訪ねました。建物は以前のままで、入場料を払って入った内部もさほど変化した様子はありません。ただ展示物を説明をしてくださる方は年配のおじいさんではなく、すでに若い女性の館員の方に変わっているのが印象的でした。時はやはり流れているのだな……と、先年祖母の葬儀を終えたばかりのぼくは改めて感じ入りました。帰り道、同じ敷地内にある迎賓館の変わらぬ朱の屋根と、その地に落ちた影の端で空を差して伸びる松の木の枝振りに、ふと少年時代の面影を見た想いがしました。



※その後、開拓記念館は平成29年11月に閉館したとのこと。展示物は新たに総合文化館として近年リニューアルオープンするそうです。開館したら是非行ってみたいですね。