『ミクとき』の登場人物たち その2 

2018, 04. 06 (Fri) 21:30

―――黛司(探偵)


人物紹介、第3回目は主人公であるひなたがタイムスリップ先の1980年で出会う私立探偵、黛司(まゆずみつかさ)です。自分がいた世界ではすでに亡くしている生前の父を捜すために彼女は黛に人捜しを依頼するわけですが、このいささか風変わりな名前と一見若いチンピラにしか見えないこの人物が思いのほか有能だったことで、彼女の未来は大きく変化していくことになります。その意味で黛は物語の中盤のキーマンといっても過言ではありません。年齢は27歳。トレードマークはふわふわの天然パーマと長身痩身。煙草と競馬と食べることをこよなく愛する不良青年です。(地味に歴史好き)

性格は口が悪い割に年少者への面倒見はいいようで、ミクを名乗るひなたの持ち込んだ無理難題にもぶつぶついいながらちゃんとつきあってくれるところをみると、どうも口先と行動が正反対なタイプというか、自分を悪く見せようとする露悪的な傾向があるようです。描いていてとても楽しいキャラクターで、この人物が登場すると物語が動き出す感じがありました。ひなたとの相性も良く、このコンビは作者が思っている以上の「相棒感」を示してくれました。

書く上でモデルとなるような人物やキャラクターは特になかったのですが、痩身・ふわふわパーマという外見的なイメージで言うと『探偵物語』の頃の松田優作さんが少し近いかもしれません。(時代的にもちょうど重なりますし)風貌がというより、あの時代の自由な空気感や探偵という職業が持つアウトサイダー的な雰囲気が。でも最近連載しながら改めて読み返してみると、どこか大泉洋さん的な要素もあるような気が・・・。(や、ぼくが単にどうでしょう好きだということもあるのでしょうけど)書いているときはけっこう本気で二枚目のつもりで書きましたね。

ぼくはこうしたざっくばらんな言葉遣いをする―――もっと言えば口の悪いキャラクターはこれまで描いたことがなかったのですが、書いてみるとすごく面白いことがわかって楽しかったですね。いやー、等身大の「大人の男を書く」ということがこんなに楽だったとは。いえ、もちろん子どもを描くのも大好きなのですが。

もっとも自分もそれなりに長く生きてきて、子どもの頃にもの凄く大人に感じたこの20代という年頃の男がどれだけ若くて青いかということは自分の身を振り返ってしみじみと感じることでもあります。しかし、であればこそ彼に対する思い入れが湧きましたし、人物像を掘り下げていくこともできました。その意味で、この黛は書き手であるぼくと主人公であるひなたの間を繋いでくれるキャラクターであったと思います。

ひなたはこの人物との捜査や推理を通じて少しずつ自分の過去を知り、そのルーツを辿っていくわけですが、それは同時に自分自身を知ることにも繋がっていく・・・。その導き手である年長者の役割はやはり彼のようなキャラクターでなければ難しかったでしょう。

ちなみに黛という名字は感覚と直感で決めました。読みづらい感じですし、滅多にない名字だと思うのですが、この小説を書いていた頃、交通機関を利用していて帽子を忘れて後日落とし物センターに取りに行ったとき、受付をしてくれた窓口の綺麗な女性の名字が「黛」であったことを妙な偶然として憶えています。

物語はまだ中盤、ひなたはいまだ過去に留まり父親を捜している最中ですが、彼女とこの風変わりな探偵の調査が一体どんな結末を迎えるのか、そしてそのとき彼女がどんな決断を下すのか、楽しみにしていただけたら幸いです。